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早稲田大学 理工学術院 大学院基幹理工学研究科 材料科学専攻

〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
早稲田大学 西早稲田キャンパス

 細井 厚志(材料強度学 准教授)

  • 材料の疲労・破壊から修復・自己治癒へ ――新しいチャレンジを繰り返し、未踏の地の開拓者に

Q 専門分野の概要から教えてください。
 材料の長期信頼性や安全性の確立を目指して、破壊現象や強度特性などを研究しています。安全性や寿命予測など、力学的な評価方法の開発も研究テーマの一つです。対象材料は金属からCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics=炭素繊維強化プラスチック)まで、幅広く取り扱っています。特にCFRPは強度もあり、なおかつ軽いので、航空機の材料に使われており、自動車など他分野からも注目を集めている材料のひとつです。ただ、高価な材料なので、すべてにCFRPを使うことはできません。そこで金属と併用できるようにするため、CFRPと金属との接合など、異種材料の接合にも取り組んでいます。また、近年は、金属疲労によって形成されたき裂部分に電流や熱などの外部エネルギーを与え、疲労き裂を修復する技術なども提案しています。

Q 材料が修復していく現象は、どのようにしてわかったのでしょうか。
 そもそもこの研究テーマのお誘いを受けたきっかけは、高度成長期に作られたインフラの事故が続いていたことにあります。非破壊検査を専門とする先生から、き裂を検出する技術が確立されれば、次は修復する技術が求められるとアドバイスを受けました。研究はゼロからのスタートだったので、最初は中学生の実験のように、金属のき裂部分にまたがるようにワニ口クリップを繋ぎ、電流を流すところから始めました。試行錯誤を続けましたが、修復する方法は一向に見つかりません。諦めかけていた頃、溶接工場で大きなパルス電流を瞬間的に流してみたところ、き裂部分をつなぐ柱のようなものがいくつも発生したのです。
電流が抵抗の低いき裂部分に流れることで、き裂が加熱され、隙間の方向に膨張し、接合するという仕組みだと判明しました。ただし、電流だけだとき裂表面に酸化膜が形成され、接合力が弱いこともわかり、のちに加熱することで接合力を強化する手法を開発しています。まだラボレベルですが、さらに基礎研究を進めているところです。


Q 異種材料の接合では、どのような研究成果がありますか。
 アルミニウム合金とCFRPの新しい接合方法を開発しました。名古屋大学にいた頃に研究していたナノマテリアルの作製技術を応用し、アルミニウム合金側にナノ構造の突起を形成、熱可塑性のあるCFRPを加熱して接着する方法です。接着剤を使わず、接着剤と同等以上の力で接合できます。
 この手法はヤモリの足を参考に着想しました。ヤモリの足には微細な無数の突起があり、そのおかげで壁や天井にくっつきます。ひまわりの花粉にも多数の棘があるように、多数の突起があると接合しやすくなるのです。


Q オリジナリティあふれる研究ですが、研究に対する心構えを教えてください。
 私自身は「まずはやってみよう」という研究スタンスです。あれこれ考えて行き詰まるより、まず手を動かす。そうすれば、失敗するにせよ成功するにせよ、何らかの結果が出ます。その結果に対して、またアクションを起こす。失敗なら失敗なりに、なぜかを考え、別の方法を考えれば良いのです。
 そもそも誰もやったことがないことをやるのが研究です。研究とは、いわば未踏の地を切り開くこと。失敗は当然です。立ち往生していても、何も始まりません。だから、とにかく手を動かして、少しでも進もうと心がけていますし、学生にもそう話しています。


  • 最先端の数理シミュレーションで、材料に革命的な発展を

Q 新しく設置された材料科学専攻についてお聞かせください。
 新しいのは、数学を応用して材料を考える教育・研究を本格的に行う点です。これまでにも数学を材料に応用した研究はいくつかありましたが、材料や機械の専門家と、数理の専門家とが、大学院で一緒に教育・研究を行うのは、日本でも初めての試みだと思います。数理、材料、機械と専門分野のバランスも良く、実験もシミュレーションも行いますし、スケールも電子、原子レベルから大きな機械まで幅広く取り扱っています。

Q 細井先生は材料強度が専門ですが、数理をどう応用したいですか。
 今の段階では、数理の知識を2つの方向で活用したいと思っています。ひとつは材料開発です。材料は原子レベルで考えると無数の組み合わせがあり、材料の最適化は容易ではありません。これまではトライアンドエラーでやってきましたが、それを数理シミュレーションで出すことができれば、かなり効率良く材料選定ができるようになります。AIに選定させるようなこともできればなお良いですね。
 もうひとつは、ラボレベルの実験データを、実際の大きさだとどうなるかをシミュレーションしてみたいです。実際の大きさで実験するのは困難ですが、シミュレーションを活用すれば、より正確に破壊現象や安全性を把握することができます。
 実験と数理シミュレーションを両方できる研究者は意外と多くいません。双方の専門家がコミュニケーションを取りながらできる環境になれば、異分野間の交流により、新しいものが生まれるかもしれません。そんな専攻になるよう期待しています。


Q 入学を志望する学生にメッセージをお願いします。
 よく言われることですが、日本はとかく「前にならえ」「横にならえ」が多く、新しいことへのチャレンジを避けがちです。一度失敗するとリカバリーが大変だからです。そんななかでも早稲田大学は新しいチャレンジに好意的で、出る杭を引き上げようとする文化があります。なかんずく、材料科学専攻は新しいコンセプトの専攻ですから、教員も学生も様々なチャレンジをしながら研究を進めていくはずです。
 研究の世界において、現状維持は遅れを取ることを意味します。新しいことをやり続けなければ発展はなく、技術革新も起こりません。ですから、新しいことにチャレンジしたいと思っている学生に集まって欲しいと思っています。






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